特集:遠心二次側クラッチについて


おさらい

遠心二次側クラッチとは

遠心とは、スーパーカブで使われている自動遠心クラッチのこと。 自動と名の付くとおり、変速時の動力の断続に、手動操作を必要としない。 モンキーやベンリー(CD系)などは手動クラッチである。

二次側クラッチというのは、変速機のメインシャフトにクラッチがある形式である。 一般的なバイクはみなこの形式である。

二次側というからには一次側もあるわけで、こちらはクランクシャフトにクラッチがある。 大半のスーパーカブやモンキーなどホンダの横型エンジンは、一次側にクラッチを持つ。

横型エンジンでの遠心二次側クラッチ採用モデル

国内販売モデルでは、タイから輸入販売されたC100EXのみである。 また遠心ではない手動二次側クラッチを採用したモデルとしては、CD90がある。

海外生産のカブでは、95cc以上のモデルはほとんどが二次側クラッチを採用している。

クラッチについての基礎知識

最大伝達トルクについて

摩擦力Fの計算式は、

F=μ・P
μ:摩擦係数
P:圧着力

このFに、クラッチディスクの半径rを掛ければ、単板クラッチの伝達トルクTが得られる。

T=F・r

実際のクラッチは、複数のディスクを重ねた多板クラッチの構成をとっている。 クラッチディスクの枚数を増やすことは、クラッチの個数を増やすこととイコールなので、

Tc=T・n
n:ディスク枚数

よって伝達トルクを向上させるには、

  1. ディスク枚数を増やす
  2. ディスク径を大きくする
  3. 圧着力を大きくする
  4. 摩擦係数を大きくする

ということになる。

実際には、あまりディスク径を大きくすると、エンジンのサイズが大きくなり、イナーシャも大きくなるので好ましくない。 また摩擦係数についても、耐熱性、耐摩耗性や半クラッチでの過渡特性を考慮すると、極端に大きくすることは不可能である。

ディスク枚数については、クラッチケースの大きさで決まるので、あとからユーザーが変更できる余地は少ない(薄いディスクがあれば枚数を増やすことが出来るかもしれないが)。 ちなみに、メーカーではディスク形状(サイズ)を標準化しており、枚数を増減させて必要なクラッチ容量を得ている。

よって、ユーザーレベルで伝達トルクを向上できるのは、圧着力(クラッチスプリング)の変更くらいのものである。

一次側 vs 二次側

エンジンの回転数は、バイク用なら10,000r.p.m以上になることも珍しくない。 そこでクランクシャフトとメインシャフトの間で、一次減速が行なわれる(このあたりは特集:一次減速比についてを参照)。 つまりクランク側にクラッチがあると高回転で回ることになり、慣性重量が大きくなる。 また回転数が高い状態でクラッチの断続が行なわれるので、クラッチのライニングにとっては条件が厳しい。

慣性重量を考えると、一次側クラッチの場合はいたずらにディスク外径を大きくできない。 実際に、一次側クラッチのディスク外径が96.5mmであるのに対して、二次側クラッチのディスク外径は110mmである。

フリクションディスクの枚数も、一次側遠心は片面2枚と両面1枚で4面であるのに対し、二次側遠心は両面4枚なので8面となる。

さらに自動遠心固有の条件として、一次側遠心クラッチの場合は、発進時と変速時のクラッチの断続を1つのクラッチ機構で行なう辛さがある。 二次側遠心クラッチの場合は、発進時の自動遠心クラッチは一次側にあり、変速時のクラッチは二次側にある。

このようにクラッチとしての能力は、あらゆる面で二次側が有利なのである。 それでも一次側クラッチが残っているのは、二次側よりも低コストだからだろう。

遠心二次側クラッチの構成

ここではC100EXを例にとり、構成部品について確認する。

E-5 Rクランクケースカバー

基本的な構成は一次側クラッチと同じだが、クラッチリフターカムプレートCOMP(5)がクランクシャフト側ではなく、メインシャフト側に位置する。

ギヤーシフトスピンドルの先端に取り付けられたクラッチレバー(4)がクラッチリフターカムプレートCOMPを回転させると、Rクランクケースカバー(1)に固定されたクラツチリフターローラー(7)に波状になったカムプレートが乗り上げてエンジン内側へ移動する。 この動きがクラッチリフタープレートに伝わり、動力が断絶される。

E-6 ワンウェイクラッチ

プライマリードライブギヤーCOMP(11)はシザースギヤになっている。 その中にワンウェイクラッチ(8)が入る。 ワンウェイクラッチの内側はスプラインになっており、プライマリードライブプレートCOMP(5)と噛み合う。 プライマリードライブプレートCOMPにはプライマリークラッチウェイト(7)がプライマリークラッチスプリング(8)とともに取り付けられる。 プライマリークラッチウェイトの外周面にはライニングが接着されている。

エンジンの回転により遠心力でプライマリークラッチウェイトが外に広がり、プライマリードライブギヤーCOMPと接触して動力伝達を行なう。 エンジンブレーキやキック始動の際はワンウェイクラッチが働き、変速機からの回転をエンジンに伝える。

E-7 クラッチ

一次減速のドリブンギヤが、クラッチアウター(2)になっている。 フリクションディスク(4)が4枚、クラッチプレート(5)が3枚の構成。 ロックナット,B 14mm(13)でメインシャフトに取り付ける。 クラッチリフタープレート(7)のラジアルボールベアリング(17)は6000番。

仕組みとしては、クラッチアウターとクラッチセンター(3)が外箱になり、その中にフリクションディスクとクラッチプレートを交互に重ねて入れてある。 クラッチプレッシャープレート(6)とクラッチリフタープレートで挟み、クラッチスプリング(8)の力で押さえつけている。 フリクションディスクはクラッチアウターと、クラッチプレートはクラッチプレッシャープレートとかみ合っている。 クラッチリフタープレートのラジアルボールベアリングのところを押せば、クラッチが切れる構造となっている。

ちなみに、二次側クラッチ採用モデルのほとんどは、一次減速比が4.058となっている。

E-11 クランクシャフト

クランクシャフトCOMP(1)のドライブギヤを取り付ける方の形状が、一次側クラッチの場合と全く異なっている。 と書きたいのだが、なぜかC100EXのパーツリストの絵は、一次側クラッチと同じになっている。 正しくは下の写真のような形状である(写真右側)。 先端の細くなった部分は、Rクランクケースカバー内側の穴に差し込まれて、クランクシャフトへのエンジンオイル供給ルートになっている。 ジェネレーター(写真左)側は、いわゆるRタイプと同じだ。

E-12 トランスミッション

スーパーカブC50カスタム(一次側クラッチ)と同じ新ロータリー式4速であるが、メインシャフト(1)が長く端部におねじが切ってある。

E-14 ギヤーシフトドラム

ギヤーシフトスピンドルCOMP(9)の先端にクラッチレバーが取り付けられる。 手動クラッチの場合は、ギヤーシフトスピンドルCOMPが短い。

部品の考察

クラッチプレート

左はWave110(NF110)、WAVE100(ANF100)、CR80/85に使用されている 22311-KN4-680(\380)。 右はC100EX、CD90A,H-W、NSR80に使われている 22311-107-000(\500)。 直径110mm、厚みはどちらもt1.5mm。 最近のモデルにはKN4が使われているようだ。

107にはディンプル加工が施されている。 その為か、価格が高い。 KN4はアジアで大量に作っているので、それを日本に輸入しているのかもしれない。

わざわざディンプル加工したのは、それなりに理由があるはずだ。 そして省いたのは、それがなくても(ライニングの改良などによって)必要な特性が得られるようになったからと思われる。

一説によると、ディンプルは油たまりとして設けてあり、クラッチのフィーリング(切れ?)に影響するらしい。 ただし伝達力としては面積が減るので、プレーンなプレートの方が高いようだ。

フリクションディスク

左の22201-GBF-B40(\680)は、CR80/85、CRF150、XR100で使用されている。 右の22201-GF6-000(\800)は、CD90H-W、NSR80、CRM80で使用されている。

GBFは、よくあるエレメントを接着剤で貼り付けたタイプ。 現在主流の製造方法だ。

GF6は、プレート上にクラッチライニングを直接成型してある。 「Made in Thailand」だ。

ちなみに後期型C100EX(HA06)やNF110、ANF100に使われているのは、22201-KBW-900(\720)。 FTR223, SL230, XR230, TRX90などにも使われている。

XR100R, XR100モタードの22201-GC4-701を発注してみたのだが、代わりに納品されたのは22201-MR8-000。 調べてみると、RVF400RやHORNET,CBR250RRに使用されているものだった。 値段は\890と、これまでのフリクションディスクの中では一番高い。

GBFと同じ接着タイプだが、ライニング・エレメントの色がちょっと違う。

MR8はKBWと非常に良く似ているが、MR8の方がエレメント間の隙間が小さいのがわかる。

クラッチスプリング

クラッチスプリングは、プリロードの状態がクラッチの圧着力となる。 ばねレートを高くしすぎるとクラッチを切るために必要な力が大きくなってしまう。

社外品でも強化クラッチスプリングと称して販売されているが、純正品でも二次側遠心の強化に使えるものがあるかもしれない。 横型エンジンに限らず、流用できそうなスプリングを購入して実測してみた。

CR80RL-Sの22401-GC4-640は22401-GBF-830に代替されていた。 同じくTRX90用の22401-GN8-920も22401-GN5-910に切り替えられていた。 XR100R, XR100モタードのKN4は、寸法的に166に近い。 一方で、XR80RのHB6は198に近い。 166、198の在庫がなくなり次第、それぞれ代替品となるのだろうか。

各スプリングのスペックは下表の通り。 素線径、外径、自由長はノギスで測定しているが、多少の製作誤差、測定誤差はあるだろう。 ばね定数(N/mm)は選ばね君で計算(材質はSWP-B)した数値であり、実際とは異なる可能性が高いが、各スプリングを相対的に比較するには役立つだろう。 初期荷重(N)はセット時(21mm)の荷重でこれが圧着力になる。 使用荷重(N)はクラッチを切った時(ストローク1.5mm)の荷重である。

機種 部品番号 素線径 外径 有効巻 自由長 ばね定数 初期荷重 使用荷重
CD90H-N 22401-198-710 2.8 20.0 4.25 26.3 27.712 146.87 188.44
C100EX 22401-GN5-910 2.8 20.1 4.25 25.7 27.234 128.00 168.85
CRF150R 22401-KSE-670 2.7 20.9 6.00 40.8 14.325 283.64 305.13
CR80/85 22401-GBF-830 2.7 21.2 5.00 37.2 16.367 265.15 289.70
XR80R 22401-HB6-000 なし 2.7 19.6 4.50 27.7 23.855 159.83 195.62
XL200,XR200,XL230 22401-KT0-000 2.6 18.7 6.20 38.3 17.220 297.91 323.74
XLR150,CB250,AX-1 22401-HB5-000 なし 2.6 19.0 6.00 37.0 16.835 269.37 294.62
XLR125R 22401-KCN-000 水色 2.6 18.6 6.20 34.8 17.545 242.13 268.44
XR100R/モタード 22401-KN4-680 2.6 20.0 4.50 31.7 18.795 201.11 229.30
NSR80,CRM80,CD90A 22401-166-000 なし 2.6 18.7 5.25 30.2 20.336 187.10 217.60
Wave110 22401-KFL-850 2.4 20.0 4.70 34.0 12.624 164.12 183.06
CBX125F 22041-KK6-000 2.4 18.3 4.25 26.6 18.935 106.04 134.44
CRF250R 22401-KRN-730 2.3 17.9 6.40 38.0 11.230 190.91 207.76

一般にばね定数は、素材の「横弾性係数」と「素線径の4乗」に比例し、「コイル平均径の3乗」と「有効巻数」に逆比例する。

GBFのように自由長が長いものは、5枚ディスクの機種である。 流用すればプリロードが大きくなるが、クラッチを切ったときに密着長に近くなるので、ストロークや経年変化(ヘタリ)に注意が必要だ(特に有効巻数が6以上の物)。 GBFは有効巻数が5なので、ギリギリ大丈夫だろう。

GBFは外径も他より1mm大きい。 こちらもクラッチセンターとのクリアランスはギリギリ入るようだ。

Wave110(KFL-680)を基準とすると、それよりも圧着力が強いのは、166、KN4あたり。 それでもダメならGBFだろうか。 ただGBFくらいの荷重になると、クラッチリフタープレートをWave110用にした方がいいかもしれない。

クラッチリフタープレート

C100EX用(ベアリング品番6000)よりもWave110用(同6200)は大きいベアリングを使用する。 Wave110の方が基本動定格荷重が1割程度大きいが、C100EX用でも問題はないと思われる。 互換性はあるのでWave110用を使うことは可能だが、残念ながら日本国内では入手は困難だ。